hkoba blog

プログラマーです。プログラミング言語ミーハーです。ツッコミ歓迎です。よろしくどうぞ(能代口調)

フロー vs ストックは誤った二分法なのか否かについて

この記事は、元記事に対する私の呟き

に対して西尾さんから頂いたこのお返事↓に対する返信です。


目次:

どこに、どんな違和感を感じたか

まず最初に、私の主張を明確にするため、私が西尾さんの主張の骨子だと解釈した部分を元記事から抜粋させて頂きます。

  • かつて[フロー]と[ストック]の境目が明確だった時代もあった
    • チャットがIRCだった時代のイメージ
  • そんな時代は過去の話だ
    • チャットサービスであるSlackは、チャット機能を無償提供する
    • 「チャットログのストックへのアクセス権」で課金するモデルだ
  • 今の時代、ほとんどのサービスが以下の機能を持つ
    • 情報をストックする

これに対して私が感じた違和感・疑問点は、

  • (私も職場で 2015 から有償版の Slack を使ってきたし検索も沢山使うけど) ログの検索があるから大丈夫と思ったことはない、必要な情報を得る大変さは今も変わっていないではないか。
  • そもそも Slack の(会話が蓄積されているだけの)ログは、私の考えるストックと呼べる代物だろうか?

でした。

「ストック」の定義の差異

西尾さんは記事の末尾にこう書いています。

  • この文章は「情報が流れさるのがフロー、情報が蓄積されるのがストック」と考えて書いた

つまり「ストック=情報の蓄積」という定義でしょう。

ここで辞書でストックを引いてみると 在庫, 貯めておくこと などの言葉が出てくるので、 それでも良いのかもしれません。情報処理システムの議論においては、その定義を用いる人も多いのかもしれません。

dictionary.goo.ne.jp

ですが私は、世間で「ストック, フロー」という語のペアが使われる時は、 (計算機が発明される以前から使われてきた)会計や経営、経済学における定義・概念が輸入されて使われるケースもあるのではないか?と思うのです。 (どちらの使い方が多いのか、分野によって使い方の差が有るのかは調べていません)

私は会計は独学でしか学んでいないのですが、岡部先生の複式簿記(リンク先 PDF) の「第2章 財務諸表の作成の実際」の冒頭には以下のように書かれています。

簿記をつける最大の目的は、財産移動を日々記録して、一定の会計期間の財産移動とその結果と しての財産の現状を掴むことである。財産の蓄積状況をストック (stock) と呼び、財産の変動状況 をフロー (flow) と呼ぶ。一般には、フローが起るたびにストックが変化することになるが、その 都度一々計算するのは大変であるので、会計計算には会計年度とか会計期間とかいった一年や半年 や四半期の会計の締切の周期を設け、その終了時にその直前の会計期間のフローの状況を集計し、 財産のストックを計算する。

```

       期首ストック + 当期フロー = 期末ストック

```

(引用内のコードブロックに生でバッククォートが出ていますが、これよりマシな表現が出来ず…ご了承下さい)

会計における定義を私なりに書き下します:

  • ストックとは(科目、残高)の組の集合
  • フローとは(日付、増えた科目、金額、減った科目)の組の順序列
    • フローを記録したものをジャーナルと呼びます。(明らかに、これはログです)

改めて辞書のストックの定義に 在庫 とあったことを思い出して下さい。 例えば他人から「在庫を教えて?」と聞かれて、「今週頭に10個あって、月曜に3個出荷、火曜に2個入荷…」 と返事をすることは非効率です。その意味でもストックという語の訳に当てられる在庫とは、 その時点での総数のことと考えたほうが、より適切ではないかと私は考えます。

会計の定義は情報システムの改善の議論には関係あるか?無いか?

会計の話は計算機による情報システムには関係ない、と思うかもしれませんが…会計におけるストックの定義が(ログではなく)残高であることには 情報システムにおいても重要な意味があると、私は考えます。なぜなら 一般化すれば、ストックとは長大なログに何らかの要約(サマリー)作用を適用して情報を圧縮したもの と言えそうだからです。 つまりそれは、人間が生ログから情報を得ようとすることに掛かるコストを節約するために生まれた知恵なのではないでしょうか?。 そのログが金勘定なのか、日々の様々な対話なのかは捨象して良いことですが、フローのログを人が直接触るより要約を作って置いたほうが良いケースだけは必ず有るだろうと思います。

今来た三行 は何にでもある…そういう話かと思います。

結論は?

  • 「フロー vs ストック」という用語・二分法は計算機システムよりも以前に、会計(複式簿記)の世界で定義され広く用いられてきた。
  • ログが蓄積されているだけでストックと呼ぶ用法は、従来の用法とは一致しない。
  • 情報システムの議論においても、会計における用語・概念整理を用いたほうが、実りが有るのではないか?

こんなお返事で如何でしょうか?